2009年10月11日

氷の導き

 不意に触れたあなたの手がひんやりとしていて、ハッとしてしまった。夏、地下資料庫。

 普段、あなたの右手はパンフレットに付いてきたボールペンで流々と文字を書き、わたしの右手は630円のボールペンでもたどたどしい子供の字しか書けない。
 いつも、あなたは大きなダンボールを抱えて運び、わたしは封筒の束を両の手から溢れそうに持つ。
 大きくてしっかりした手。小さく丸っこい手。
 誰がどう見ようと、あなたは成熟した大人でわたしは未熟な若人。そういう関係。

「暑いね。さっさと終わらせて戻ろう」
 汗をタオルで拭きながらあなたは言う。わたしのもやもやなんか何も知らずに。

 あなたの手は器用で力強い。わたしのと同じ構造をしているとはとても思えない。
 もしも。
 もしもあなたの冷たい手がわたしの手じゃなくて……、ストップ。やめよう。やめましょう。想像だけで狂ってしまうのは悲しいから。
posted by 姫林檎カヲル at 00:00| Comment(0) | 林檎っぽい作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする